学生時代に、スペイン料理店でアルバイトをしていた私は、初めての料理にカルチャーショックを受けました。中でも、生ハムは衝撃的でした。丸々と太った豚の腿肉が塩漬け、熟成を経て1年後には生ハムに!香ばしい熟成の香、絶妙な塩加減、凝縮した旨み、『いつか自分で作りたい!』と強く思いました。
迷うことなくコックになり、生ハムに関する情報を集めました。24歳の時、自腹で腿肉を買い込み初チャレンジ!塩漬け前の腿肉は約10キロ、その大きさに驚きました!ワクワクしながら仕込みをしたことを今でも覚えています。毎日、毎日生ハムの事ばかり考える日々。まるで生ハムに恋してる感じでした。
そして1年後、夢にまで見たこの瞬間。お店の仲間が見守る中ゆっくりとナイフをいれます。そして口の中へ・・・・
『塩辛い』 辛くて、辛くて飲み込む事が出来ませんでした。生ハムへの初恋は大失恋に終わりました。
シエスタを開店して1年が過ぎたある日、小学校の同級生がランチに来てくれました。
『久しぶり〜!』 食べ歩きが趣味という事で会話が弾みました。
加藤 『どんな料理が好きなの?』
同級生『生ハムとか旨いよね!』
生ハム! 開店の慌しさで心の隅に追いやっていた想いがよみがえってきました。
加藤『最高に旨い生ハム作るから楽しみにしてて!』
勢いで約束してしまいました。
そして1年後、友人を招いての試食。
『旨い!ちゃんと熟成してる!本物の生ハムの味がする!』
まだまだ改良点はあるものの、10年前の夢が形になった瞬間でした。
『コックは夢追い人だからね。』
修行時代の先輩コックさんの言葉を思いだしました。その意味を噛み締めた経験でした。
物作りに夢を持ち、情熱を注ぐ。ワクワクしながら失敗しながら。
生ハム作りは、私の原点のひとつです。